近年は、健康及び省エネを住まいから推進するスマートウェルネス住宅と呼ばれる取り組みが積極的に行われています。
スマートウェルネス住宅を取り扱う不動産メーカーも増えており、助成制度が導入されるなど、社会全体でスマートウェルネス住宅に対する機運が高まっています。
スマートウェルネス住宅とはどんな住まいなのか紹介するとともに、そのメリット及び業者・自治体の具体的な取り組み、助成制度について解説をします。
この記事でわかること
- スマートウェルネスとは省エネと健康の2つを合わせた言葉
- スマートウェルネス住宅は断熱性が高いなど快適な環境が維持されている
- スマートウェルネス住宅では各種疾病の発生リスクが抑えられる
- 助成制度の代表例として国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進事業がある
- スマートウェルネス住宅に取り組む業者や自治体が増えている
スマートウェルネス住宅とは「スマート」と「ウェルネス」の造語
スマートウェルネス住宅とは、「スマート住宅」と「ウェルネス住宅」の2つの言葉が組み合わされて作られた造語とされています。
「スマート住宅」がエネルギー効率の良い住宅を指し、「ウェルネス住宅」が安心・安全・健康に暮らせる住宅を指します。
人と環境に優しい住宅を指すスマートウェルネス住宅という考え方は、これからの住宅建築において注目され推進されていくことが期待されています。
一般社団法人「健康・省エネ住宅を推進する国民会議」で提言された
スマートウェルネス住宅は、一般社団法人「健康・省エネ住宅を推進する国民会議」で提言されている考え方とされています。
一般社団法人「健康・省エネ住宅を推進する国民会議」の前身に、1993年設立の「NPO法人 シックハウスを考える会」がありました。
健康を阻害するシックハウス対策に取り組み、健康に過ごせる住まいの重要性を提言してきました。
その後、2006年に「安全な住環境に関する研究会」が発足し、「住環境と健康は多くの国民の願いである」という考え方から一般社団法人「健康・省エネ住宅を推進する国民会議」が誕生しました。
高齢者から子供まで多様な世代が健康に生活できる住まい
スマートウェルネス住宅が目指すのは、高齢者から子供まで多様な世代が健康的に生活できる環境の住まいです。
特に近年の日本は、超高齢化社会に差し掛かっています。
介護が必要となる世代の割合が増えていることから、単に長生きをするだけではなく、健康で快適に生活できる「健康寿命」を延ばすことが緊急の課題となっています。
スマートウェルネス住宅が目指すのは、超高齢化社会の中で高齢者が快適に生活できる環境づくりの推進に主眼が置かれています。
スマートウェルネス住宅の主な特徴を6項目紹介します
スマートウェルネス住宅に共通してみられる主な特徴を、以下に6項目紹介します。
- 断熱性能が高い
- ハウスダスト・カビ・ダニが少ない
- 光熱費の削減を実現する
- エネルギー収支ゼロを目指す
- 健康に影響しない自然由来の素材を使用
- 高齢者・障碍者向けバリアフリー住宅
住宅に生活する家族が快適かつ健康に生活することを目的にして、様々な機能や設備が搭載されているのがスマートウェルネス住宅の特徴です。
断熱性能が高い
スマートウェルネス住宅は、総じて断熱性能が高いのが特徴です。
住まいの断熱性能を高くすることで、住まいの中で部屋ごとの環境を一定に保つ効果が期待できます。
気温の変化は、人間の身体に様々な影響をもたらします。
血圧の変化や心臓に与える負担など、意外に多くの影響が及んでしまいます。
特にあまり冷暖房設備が備わっていないトイレや廊下・洗面所などにリビングから移動する際の気温変化は、疾患のある方や高齢者にとっては健康を阻害する要因となりえます。
住まいの断熱性能を高めることは、スマートウェルネス住宅を目指すうえで欠かせない要因といえるでしょう。
壁の素材にこだわる
住まいの断熱性能を高めるためには、外壁や内壁などに利用する素材にこだわる必要があります。
見た目は壁でしっかりと覆われていると見える住まいも、壁の素材によっては外気の温度を壁が透過して室内の気温に影響を与えます。
近年は、住まいの壁に利用する素材において研究・開発が進んでおり、最新の高性能な素材が導入されています。
例えば、断熱性の高い素材として注目されているのがグラスウールというものです。
グラスウールとは、細いガラス繊維が複雑に絡み合って構成されている素材で、熱の伝導率を最大限に下げる効果があります。
グラスウールは、長期間経過しても断熱効果が衰えづらい高い品質の素材であるため、現在は広く住宅建築の際に活用されています。
スマートウェルネス住宅を建築する際には、壁に利用する素材にこだわりを持つ必要があるでしょう。
窓ガラスの素材と構造にこだわる
また、壁の素材に加えて窓ガラスの素材や構造にこだわりを持つことも、スマートウェルネス住宅を建築するためには必要なことです。
窓ガラスは、外気の気温が室内に入り込む最大の個所と考えられています。
窓ガラスの素材にこだわらないと、室内の気温を一定に保つことは難しいでしょう。
例えば、近年は最新の窓ガラス素材として「アルミ樹脂複合サッシ」が利用されています。
熱の出入りや結露を防ぐ効果が高く、夏は涼しく冬は暖かい室内を保つ効果が期待できます。
遮音性能にも優れており、気温の快適性に加えて騒音対策にもなる点から、スマートウェルネス住宅を目指すうえで有利な素材と考えられるでしょう。
ハウスダスト・カビ・ダニが少ない
断熱効果の高い素材の壁を採用することで、壁の表面の温度が高く保たれることから、カビやダニの発生を抑止できます。
カビやダニが少なければ、ハウスダストの発生量も抑える効果があります。
カビやダニ・ハウスダストはぜんそくやアトピーの要因になることが多いため、家族の健康を考えるうえで重要な要素といえます。
健康を維持するためには普段の清掃を適切に行ってハウスダストの発生を抑えることも重要ですが、そもそもハウスダストやカビ・ダニが発生しづらい環境を重視するのがスマートウェルネス住宅の考え方です。
光熱費の削減を実現する
断熱性の高い住まいに暮らすことで、光熱費の削減効果も期待できます。
冬場は室内の暖めた空気を逃さず、逆に夏場は冷房で下がった温度を維持しやすくなります。
寒い冬場の暖房費、あるいは暑い夏場の冷房費を抑えられる効果が期待できるため、年間の光熱費が減る家庭が多くなります。
光熱費を抑えて家計面で有利になることに加え、環境に貢献するという面でも大いに意義があります。
エネルギー収支ゼロを目指す
スマートウェルネス住宅では、太陽光発電を中心にした自家発電をすることで、「エネルギー収支ゼロ」を目指すことも一つの目標にしています。
エネルギー収支ゼロとは、すなわち自宅で発電した電力を消費して生活を営むという考え方です。
現在、太陽光発電を導入している個人宅は増加傾向にあります。
発電量と電力使用量を確認できるモニタが設置されている住まいも増えていて、エコの意識を高く持つ家庭も多いのではないでしょうか。
今後の新築住宅は、エネルギー収支ゼロを目指して太陽光発電設備を設置することが一般的になる可能性もあります。
健康に影響しない自然由来の素材を使用
スマートウェルネス住宅を建築するうえで、健康に影響が少ない自然由来の素材を選択するというのも重要な考え方です。
例えば、近年では鉄筋鉄骨コンクリートではなく自然由来の無垢材など木材を活用して住宅を建築する不動産メーカーが増えています。
断熱効果など機能面での充実ぶりに加えて、心地よい生活環境や和風のさわやかな木造の香りを大事にしたいという考え方もスマートウェルネス住宅のポイントといえるでしょう。
高齢者・障碍者向けバリアフリー住宅
スマートウェルネス住宅といえば、高齢者や障碍者が長く健康に過ごせるバリアフリー環境が整った住宅と考える方が多いでしょう。
これまで紹介した断熱効果やハウスダスト・エネルギー収支ゼロなど実用面でのポイントももちろん、すべて重要なポイントであることは間違いありません。
家族全員が健康で快適に過ごせる「健康寿命」をいかに長く継続するかは非常に重要なポイントです。
足の不自由な家族のため手すりを取り付けたり、段差を最小限にしたりする対応が必要になる家族も多いでしょう。
スマートウェルネス住宅を建築するうえで、高齢者や障碍者がいかに快適に過ごせるかを考慮することは、最も優先しないといけない要素かもしれません。
スマートウェルネス住宅を導入するメリットを6項目紹介します
スマートウェルネス住宅を導入することには、以下のようなメリットがあると考えられています。
- 高血圧の予防
- 急性心筋梗塞の予防
- 省エネによる光熱費の削減
- カビ・ダニの発生を防ぐ
- 高齢者が過ごしやすい
- ストレス・倦怠感などの緩和
スマートウェルネス住宅は、家族全員が健康で過ごしつつ環境にも配慮した品質の高い住まいです。
居住する家族にも社会環境的にも、両方の面でメリットがあると考えられています。
高血圧の予防
スマートウェルネス住宅を導入することで、高血圧の予防につなげられます。
高血圧の原因として、主に以下の3つの要因があると考えられています。
- 遺伝的要因
- 生活習慣
- 寒さ
遺伝的要因は、自身で改善することは難しいでしょう。
生活習慣は主に食生活の改善を図ったり、嗜好品の使用を抑えたりすることで、一定の効果が得られる要因です。
寒さについては、外出時だけでなく住まいの中での寒暖差も注目されています。
スマートウェルネス住宅の特徴の1つである断熱効果は、住まいの中の気温を一定に保つ作用があります。
住まいの中での移動時に体にかかる負担を最小限に抑えて、高血圧のリスクを軽減する点は大きなメリットと考えられるでしょう。
急性心筋梗塞の予防
スマートウェルネス住宅の断熱効果は、高血圧予防と同時に急性心筋梗塞の予防効果も期待されています。
急性心筋梗塞が起こる要因として、住まいの寒暖差が挙げられます。
居室間の移動だけでなく、起床時に寝室の気温が低いことも注意すべきでしょう。
布団やベッドの中の暖かいところから出て、寝室の寒い空間に入ることで心臓に思いのほか大きな負荷をかけていることになります。
急性心筋梗塞は、起床時に起こる事例が多いともいわれています。
居室内の気温が極端に下がることを防げる断熱性の高い住宅に住むことで、急性心筋梗塞のリスクを最小限に抑えることが期待されます。
省エネによる光熱費の削減
スマートウェルネス住宅に居住することで、省エネ効果による光熱費の削減効果が得られます。
スマートウェルネス住宅においては、断熱効果の高い壁材を利用するため室内の温度を維持できます。
少ない電力で気温を維持できるため、光熱費の削減につながります。
合わせて、太陽光発電システムの導入により、自家発電による電力を活用できます。
省エネ効果を得ると同時に、自家発電による電力活用でさらに光熱費の削減が促進されます。
家計の助けになるだけでなく、環境問題にも貢献できる魅力的な住まいといえるでしょう。
カビ・ダニの発生を防ぐ
スマートウェルネス住宅の特徴を活かすことで、生活空間内のカビやダニの発生を最小限に抑えられます。
カビの発生の主要因といえば、窓ガラスの結露です。
結露が発生しづらい素材の窓ガラスを採用することで、カビの少ない快適な生活環境を得られます。
また、ダニも結露による適度な水分と温かい気温の空間で繁殖が促進されることが分かっています。
結露の発生を最小限に抑えてきれいな空気を維持することで、ダニの発生のリスクも軽減できます。
高齢者が過ごしやすい
スマートウェルネス住宅は、高齢者が過ごしやすい住環境を目指しています。
車いすでも問題なく移動できるように段差のない動線を確保するなど、バリアフリーの考え方を前面に押し出しているのがスマートウェルネス住宅の大きな特徴です。
また、冬は暖かく夏場は涼しい年中快適な生活を送れる環境づくりを目指しています。
高齢者や障碍者も快適に過ごせる住環境を目指し、バリアフリー設備や断熱作用の高い素材を積極的に取り入れています。
ストレス・倦怠感などの緩和
生活環境に対する満足度が高いと、ストレスや倦怠感を軽減できるといわれています。
冬場、住まいの中が寒いと暖房の入っていない部屋に移動するのが億劫になることもあるでしょう。
適度な気温の環境が維持されているからこそ、身体を動かし活動できるという側面があります。
スマートウェルネス住宅の断熱作用の高い壁や結露が少なく健康を維持しやすい空間で生活することで、精神的なストレスの緩和や倦怠感の発生を最小限にとどめる効果が期待できます。
スマートウェルネス住宅には国の補助制度がある
スマートウェルネス住宅を建設した事業者に対しては、国からの補助制度が適用されて費用面の一定の補助が受けられます。
代表的な補助制度としては、国土交通省が実施する「スマートウェルネス住宅等推進事業」があります。
2022年8月現在、スマートウェルネス住宅への補助制度は不動産メーカーなど事業者のみが対象となっています。
しかし、今後は個人レベルにも補助制度が拡大される可能性もあるため、これからスマートウェルネス住宅を所有しようと検討している方は制度の適用対象か確認してみるとよいでしょう。
国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進事業
スマートウェルネス住宅等推進事業とは、国土交通省が実施する事業者向け補助制度です。
国が公募を行い、事業者を選定します。
対象となるのは、高齢者・障害者・子育て世帯が健康かつ安定的に過ごせる住まいの建築を通した健康の維持・増進に貢献する事業です。
選定された事業者の不動産建築など、住宅の準備に要した費用の一部を国が補助するという制度となります。
スマートウェルネス住宅等推進事業において、補助の対象となる事業は以下の4種類です。
- サービス付き高齢者向け住宅整備事業
- 住宅確保要配慮者専用賃貸住宅改修事業
- 人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業
- 地域生活拠点型再開発事業
高齢者や障碍者など、一般的に健康的な生活を送るのが難しい人が、快適に過ごせる環境を確保する住まいに対しての補助が実施されます。
いずれの内容も、年に1回公募を行うのが一般的になっています。
スマートウェルネス住宅等推進事業は、国家レベルでスマートウェルネス住宅の推進に取り組んでいる事例の1つといえるでしょう。
スマートウェルネス住宅に取り組む不動産メーカー・ブランドを紹介
スマートウェルネス住宅の建築に取り組んでいる不動産メーカーおよびブランドについて、以下に代表例を3つ紹介します。
- ナイス株式会社
- 無垢スタイル
- ザハウス
それぞれの会社・ブランドのスマートウェルネス住宅建築への取り組みには、個性があります。
スマートウェルネス住宅の建築を目指す場合は、会社・ブランドごとの特徴を理解して、希望に合った業者を選択しましょう。
1950年創業の老舗企業であるナイス株式会社
ナイス株式会社は、1950年創業の老舗企業です。
もともとは木材を扱う商社でしたが、現在では不動産業者として親しまれるようになりました。
ナイス株式会社の特徴は、設計から建築資材調達および施工まで一貫して建築作業をおこなう点が挙げられます。
一般的な不動産メーカーであれば、作業を下請け会社に委託する場合も少なくない中、ナイス株式会社は一貫して1つの会社で作業を実施します。
ナイス株式会社が持つ「パワービルド工法」という技術は、特許を取得している高度かつ唯一無二の技術です。
ボルトやナットを用いることなく住宅建築ができるなど、高い技術を誇ります。
アフターフォローも充実した不動産メーカーであるため、初めて注文住宅の購入を検討する方にもおすすめできます。
自然素材にこだわる無垢スタイル
無垢スタイルは、建築素材に無垢材を代表とする自然素材を使うことにこだわるメーカーです。
無垢材は湿度を調節する性質を持ち、湿度の高い夏場には室内の湿気を吸収し、乾燥しやすい冬には内部の水分を放出して年中快適な生活空間を維持します。
また、無垢材は化学素材などを一切使わないため、「シックハウス症候群」と呼ばれる化学物質に対するアレルギーのトラブルに悩む心配がありません。
自然由来で安心であり、かつ頑丈で長期的な生活環境を維持できる天然素材を生かすことで、スマートウェルネス住宅の普及に取り組んでいるのが無垢スタイルです。
材木店の経験と素材を生かした住まいづくりをするザハウス
ザハウスは、なかやしき株式会社という企業が運営する建築ブランドです。
なかやしき株式会社は、明治9年に創業した材木店で、木材の素材選びには定評があります。
ザハウスは、自然由来で安全かつ頑丈な木材を活かした住まいづくりをコンセプトにしています。
ザハウスの住まいでは、「ネットゼロエネルギーハウス」を目指す施工が積極的に行われます。
太陽光発電の積極的な設置実績に加え、断熱効果の高い素材を積極的に活用します。
発電機能と省エネ機能を組み合わせることで、ネットゼロエネルギーハウスの施工に取り組みます。
スマートウェルネスシティ構想に参加する自治体が多い
スマートウェルネスという考え方は、住宅にとどまらず拡大しています。
「スマートウェルネスシティ構想」もその一つで、多くの自治体が参加して各種取り組みを行っています。
スマートウェルネスシティ構想のコンセプトは、健「幸」社会の実現です。
身体面の健康だけでなく、生きがいを感じながら安心安全で豊かな生活を送れる社会の実現をコンセプトとして掲げている構想です。
住宅を含めたトータルの生活環境でスマートウェルネスを目指す
スマートウェルネスシティ構想は、住宅を含めたトータルの生活環境においてスマートウェルネスの状態を目指す取り組みを行います。
例えば、自動車の進入を制限する区域を設定することで、安心して外を歩ける環境を用意します。
これにより、高齢者も子供も体を動かす習慣を維持しやすくなり、区域の住民の健康志向を高めることが期待されます。
多くの全国の自治体が参加するスマートウェルネスシティ構想は、今後もさらに拡大して全国的に取り組みがなされることが予想されます。
まとめ
スマートウェルネス住宅は、断熱素材の使用や結露の少ない窓ガラスなどを使用して施工を行うことで、健康で安全に生活できる環境づくりを目指した住宅です。
また、太陽光発電や省エネを取り入れ、エネルギー収支ゼロを目指す側面もあります。
国による助成制度があるなど、社会全体でスマートウェルネス住宅の推進を図っていく姿勢が見られます。
さらに、コミュニティ全体でスマートウェルネスの考え方を推進する「スマートウェルネスシティ構想」も拡大を見せています。
高齢者や障碍者も快適に過ごせる生活環境を整備しようとする考え方は、今後もますます拡大していくことが期待されています。